2. 代表的な一次性頭痛の特徴と治療
片頭痛(へんずつう)
a. 日本における疫学
日本では片頭痛の年間有病率は8.4%と報告され、約840万人以上の患者が存在すると言われています。男女比は約1:3と圧倒的に女性に多く、特に20代〜40代の社会的活動が最も活発な世代の女性における有病率は15〜20%に達します。
b. 片頭痛の分類と臨床経過
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において、片頭痛は主に以下の2つに大別されます。
前兆のない片頭痛
Migraine without aura。片頭痛全体の約7〜8割を占めます。
前兆のある片頭痛
Migraine with aura。片頭痛全体の約2〜3割を占めます。
c. 代表的な前兆症状(Aura)
前兆症状は、頭痛の発現前に数分〜数十分かけて徐々に進展し、通常60分以内に完全に消失する可逆的な局所神経症状です。
視覚前兆
最も頻度が高く、90%以上に見られます。視野の中心付近から拡大する「閃輝暗点(Fortification spectrum)」や視野欠損が代表的です。
感覚前兆
片側のしびれ、異常感覚が手から顔面へと移動するように広がる症状です。
言語前兆
軽度の失語症や構音障害がみられることがあります。
d. 片頭痛発作の4段階の臨床経過
典型的な片頭痛発作は、以下の4つの相を経て進行します。
STEP 1
予兆期(Prodrome)
発作の数時間〜数日前に生じる、生あくび、易疲労感、首や肩が凝る、過食傾向など、体のむくみ。
STEP 2
前兆期(Aura)
前述の神経症状がみられます。前兆のあるタイプに限られます。
STEP 3
頭痛期(Headache)
4〜72時間持続する拍動性頭痛。悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴います。
STEP 4
後期症状(Postdrome)
眠気や集中力低下、おしっこがよく出るなどの症状がみられます。
e. 片頭痛の原因と増悪因子
現代の片頭痛の病態生理において最も有力な仮説は、「三叉神経血管説」です。
01
神経因性炎症の発現
ストレスや寝不足、月経周期、天候、光や音・匂い、赤ワインやチョコレートなどのチラミン含有食品などのトリガーにより三叉神経節が刺激される。
02
CGRPなどの放出
神経終末からCGRP(抗カルシウム遺伝子関連ペプチド)などの血管作動性ペプチドが放出され、血管の異常な拡張と炎症が起きます。
03
痛みとして中枢へ伝達
この刺激が三叉神経を介して、痛みの情報として中枢へ伝達されることで痛みを感じます。また脳幹や視床のニューロンも過敏になることで悪心、嘔吐の症状が出現します。
f. 診断基準
的確な診断のために、当院では国際基準である「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)」を厳格に適用しています。臨床で最も頻度の高い「1.1 前兆のない片頭痛」の診断基準を以下に示します。
【1.1 前兆のない片頭痛 診断基準】
- B〜Dを満たす発作が5回以上ある。
- 頭痛の持続時間は4〜72時間。未治療、または治療が不成功の場合。
-
頭痛は以下の4つの特徴のうち少なくとも2項目を満たす。
- 片側性
- 拍動性
- 痛みの程度は中等度〜重度
- 日常的な動作、歩行や階段を昇るなどにより頭痛が増悪する、あるいは日常的な動作を避ける。
-
頭痛発作中に以下の少なくとも1項目を満たす。
- 悪心および/または嘔吐
- 光過敏および音過敏
- ほかに適切なICHD-3の診断がない。二次性頭痛が否定されていること。
脳神経外科クリニックとしての最重要任務は、上記「E項目」の遂行、すなわちクモ膜下出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、脳静脈洞血栓症などの器質的脳疾患(二次性頭痛)をMRI等の画像診断によって確実に除外・鑑別することにあります。